2006年5月、ハバロフスクでの茶道紹介をと、当時の総領事、長内様よりご依頼を受け、単身出かけ、連日充実した日々を過ごすことができました。特に、当時83歳の日本人男性に、『正客』として参加して戴いた時のことは、一生忘れられない想い出です。その方は、第二次世界大戦中、捕われの身となり、極寒の地で大変なご苦労をなさいました。その後、幸いなことに、現地の人に助けられ、日本に戻ることができました。その恩返しをと、再び現地に戻り、約二十年、中学校で日本語を教えてこられ、『正客』に憧れをずっと抱いておられたのです。また、師が帰国したため残され、チャンスを待っていた大学の茶道同好会の学生さん達、日本での茶道体験の感動をもう一度と願う現地の方々、全員、着物でミニ茶会に参加して戴きました。心底、日本文化を愛している方々の集まり故、心が一つになり、一人一人の目が光り輝いているのを見て感動した私でした。正客のお礼にと、ロシア正教の美しい香入れ頂戴いたしました。
早速、翌日、長内夫人にご同行願い、日本兵の方々の眠る墓地を訪れました。そこは、墓地の隅の一角で、陽の当らない寒々としたところで、思わず寂しい気持ちになりました。そこで抹茶をお供えし、お参りさせていただきました。「こんな事をして下さったの、はじめてよ。」と、夫人は大変喜んでくださいましたが、私は何とも複雑な心境で、土に流した緑色の液体が、じわじわとしみていく様子をただただ、何も言わずみているだけでした。そして、今回、初めての席主を務めさせていただくにあたり、あの極寒のハバロフスクで、世界平和を願って今なお日本語教師を続けておられるSさん、そして無念の死を遂げた多くの方々のことを胸に、戴いた香入を飾ることにいたしました。世界平和の架け橋となることを願いつつ…。 |